進撃の巨人・自由論

半分は哲学の解説ブログ、半分は作品の考察ブログ(最近は3:7くらい)。

5.8.a の註 なぜグリシャはロッド以外のレイス一族を殺したのか

 

註を別記事に移しました。本文はこちら。

unfreiefreiheit-aot.hatenablog.com

 

グリシャがフリーダから「始祖」を奪い、レイス一族を殺したとき、もしフリーダ以外の子供たちが生き残っていれば、かれらの誰かによって、エレンは「すんなり」喰われていただろうと、エレンは推測していました(115話)。

それはどういう意味なのか。考えてみると、ちょっと複雑です。

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115話「支え」

 

いつエレンが喰われる危険があったのか

第一に、エレンが「すんなり」喰われてしまう危険は、いつあったのか。

ロッド家はグリシャが何者かを掴んでいたわけではなさそうなので、エレンがグリシャから巨人を引き継いだ直後ではないでしょう。

というか、この時点でエレンが「始祖」持ちだと知っていれば、さすがにロッドも、自分で喰うなり、新しく子供を作って喰わせるまでエレンを拘束なり監視なり、なにか手を打ったでしょう。

 

だとすれば、エレンが喰われる危険があったのは、かれが巨人の能力者だと判明した直後しかありません。

しかし当初はロッドにも、エレンが「始祖」持ちかどうか確信がなかったのでしょう。

だからこそ、エレンを調べたうえで殺すと提案した憲兵団に、事態を任せておく以上のことはしなかったのです(19話)。

 

どうしてロッドは、それ以上の手を打たなかったのか?

それは、かれ以外にレイス一族の者がいなかったからでしょう。

もしレイス家の者が複数生き残っていれば、ダメもとでエレンを喰ってみるという強硬策もとれたでしょう。

しかし、一族にはロッドしか残っていないのに、かれが一か八かでエレンを喰って、かれが「ハズレ」だったとしたら?

その場合、13年の寿命という制約がロッドにつきますが、そのあいだに始祖を見つけられるとは限りません。

 

もちろんヒストリアがいました。

しかしこの時点では、それにも無理があります。

もともとレイス家の使命を知らないヒストリアに、まだ「始祖」持ちかどうか確信のもてないエレンを喰わせるとして、どうすればかのじょをそう誘導できたでしょうか?

ましてやロッドには、レイス家が「始祖」を奪われたことを、オモテの王政からギリギリまで隠しておきたいという動機もあったのですから(65話)。

(最後の点についてはケニーの推測ですが、しかしロッドは、わが身かわいさから「始祖」を弟や娘になすりつけたという点だけは否定したものの、この点についてはケニーに反論しませんでした。)

 

そういうわけで、グリシャがレイス家をロッド以外みなごろしにしたことは、巨人の力に目覚めたばかりのエレンを、たしかに守ったのです。

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121話「未来の記憶」

 

なぜロッド・レイスだけが生かされるべきだったのか

第二に、なぜロッド・レイスだけが生かされるべきだったのか。

かれの行動が引き金となって、壁内の王政が隠してきた秘密を、兵団が最終的に暴くことができたからなのでしょう。

もしグリシャがレイス家を根絶やしにしていたら、その後の歴史は大きく変わっていたおそれがあります。

 

まず、後ろ盾を失ったオモテの王政が、どう行動したか分かりません。

5年後に兵団はクーデターを成功させ、王政の秘密を暴きますが、そうなる前に、王政の暴走あるいは迷走のせいで、壁内人類は混乱し、巨人の侵入やら内乱やらで滅んでしまっていた、という可能性もありえます。

 

しかも、ライナーたち「マーレの戦士」が潜り込んでいたのです。

もし万が一、かれらが真の王家の全滅を知れば、さっさと故郷に戻ってそれを報告し、マーレは早々にパラディ島せん滅の攻撃を仕掛けたでしょう。

マーレが報告をうのみにして「地鳴らし」は絶対ないと踏めば、その圧倒的軍事力で島を滅ぼしたでしょうし、王家の生き残りがいるかもと慎重に判断したとしても、より積極的な攻撃を仕掛けてきたことは間違いないでしょう。

そうなれば、パラディ島が生き残ることは不可能だったはずです。

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115話「支え」

 

こうして、エレンの見解は恐らく正しいということが分かりました。

あの時グリシャが、ロッド以外のレイス一族をみなごろしにしていなければ、作品で描かれたとおりの歴史は、きっと成立しえなかったのです。

 

(註おわり)

 

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