進撃の巨人・自由論

半分は哲学の解説ブログ、半分は作品の考察ブログ(最近は3:7くらい)。

補論 エレヒス実在説に関する哲学的一考察

 

この記事はネタなので、あまり真に受けないでね!

 

序言

第4章がここまでヒストリア推しになってしまったのは予定外。

かのじょのエピソードは、書いているあいだの新たな発見が特に多くて。

第2章のエルヴィンもそうだったけど、それ以上ですね。

(筆者が好きなキャラは、ジャンとハンジさんなんですが。)

 

ここまで長々とヒス推ししちゃったので、どうせなら地雷ネタも踏み抜いちゃいますか。

ええ、そうです。作品終盤でヒストリアは誰と子供を作ったのかという、あの荒れまくった話題のことです。

夫のサスペンダー君なのか、密会していたエレンだったのか。

これを判定することは、つまるところ、公式カプはエレミカなのかエレヒスなのかを決めることと同義であると、多くの読者が考えたようです(それは思い込みに過ぎないのですが)。

それゆえにでしょう、多くの人がネット上での不毛な争いに身を投じたのでした。

 

あれなんですけど、みんなもうちょっと冷静になりましょうよ。

だってあれ、作者・諌山のイタズラじゃないですか。

ラストでエレミカ両想いが判明しようがしまいが、あの夜、ヒストリアとエレンがその場の勢いで致してしまった可能性(あくまで可能性であって確定事実とは言っていない)は打ち消せないように描写しているんですよ。

そのへんのフォローは(連載中はおろか単行本でも)一切なしで作品を終わらせちゃったんですから、諌山は確信犯なのです。

エレミカ勢とエレヒス勢の争いは、まったくもって諌山の手の平の上なのです。

いやーほんと性格悪いなー作者。

 

哲学する者は、表層的な対立の図式そのものに批判の光を当てねばならない。

というわけで、本当の二者択一は、これだッ!

「エレミカはあった、エレヒスはなかった」説 vs. 「エレミカもエレヒスもあった」説

作者・諌山は、どっちとも取れる解釈の余地を残しています。

筆者は、後者の可能性が高いと思っていますが。

 

え、もし後者なら、エレンがクズ野郎になっちゃうじゃないかって?

エレヒスがあった可能性を認めるだけで、プラトニックなエレミカ・エンドが汚されてしまうじゃないかと考える読者さんたちは、とっても純情です。

でも男って、たとえ本命のコを想い続けていても、他の悪くない仲のコといい雰囲気になれば流されてしまう、愚かな生き物ではないでしょうか。

ね、女たらしのサルトル先生!

 

参考記事。

筆者の方のことはよく知りませんが、サルトルに「オラオラ系の無頼派哲学者」は、ちょい盛りすぎかな。かれはオラついてるわけでは......(笑)。

せいぜい「ナンパと性癖自己分析が趣味の露悪家哲学者」くらいのほうが合っている気がします。(かえってこのほうがヒドい?)

diamond.jp

 

エレヒス不在説の記憶論的証明

※ 以下、小見出しもネタなので、あまり真に受けないでね!

 

エレヒスが実現していなかった可能性を、先に検討してみましょう。

まず見たいのは、エレンの回想中の、ジークに「ミカサの気持ちに応えてやりなよ」的な話をふられたシーンです。

そこでエレンは「長くて4年しか寿命がないオレじゃミカサちゃんを幸せにできない」(意訳)と言いつつ、なぜかヒストリアとの密会を思い出しています

私が... 子供を作るのはどう?

いやー、このかぶらせ方はヤバいでしょ!

エレンがミカサの気持ちに応えられないのは、余命が少ないだけだからじゃなくて、あの夜、勢いにまかせてヒストリアと致してしまったことの後ろめたさも理由なんでしょう! この浮気もんがぁ!

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130話「人類の夜明け」

 

......と思った人は少なくないのでは?

でも、むしろこれ、あの夜には二人のあいだに何もなかったことの示唆と見たほうが自然な気がします。

だって、ここでヒストリアとヤッてなかったとすれば、エレンはどうみても童貞ですよ? 逆にヤッていたとしても、これが初体験ですよ? (ゲスムーブ失礼。)

だとすれば、本当に二人がヤッていたなら、エレンの脳裏には艶めかしい夜の記憶がこびりついているはずなのです。

でも、そういう記憶はかけらも出てこない。

なーんだ、やっぱりヤッてないじゃん!

つまりこのシーンには、エレミカ派の皆さんはむしろ安心していいのです。

 

......と言いつつも、やっぱりエレヒスあった説のほうが有利だと筆者は考えます。

いまさら筆者が指摘するまでもないですが、出産は数か月後と兵長が言いながら(112話)、その直後にヒストリアは産んでるんですもんね(134話)。

やっぱりお二人は、致してしまったのではないでしょうか。

『進撃』が掲載されていたのは少年誌ですし、作者のスタイルからしても、この場面にかぎらず露骨に性的なシーンは描写しないようにしているみたいです。

だから先のシーンでは、エレンはほんとうは艶めかしいベッドシーンも込みで思い出しつつ、ミカサに後ろめたさを感じていたのかもしれません。

 

エレヒス実在説の関係論的証明

※ くれぐれも小見出しはネタなので......(以下略)

 

妊娠の時期の問題を抜きにしても、エレヒス致してしまった説は、なんともありそうな話です。

ヒストリアとエレンの関係性を考慮すると、二人は後腐れのない一夜限りの関係を結んでしまってもおかしくないように思えるのです。

二人のお互いへの感情は、王政編以後、互いに悪からず思いあっている、といったところ。

エレンのほうでは恋心にまでは行ってないでしょうけど、それじゃあヒストリアの感情はどうかというのは別の話。

 

当初は色恋沙汰に疎かった少年エレン(マルロと同列)は、記憶が蘇るからという理由で何度もヒストリアの手を握りにいってしまうという、少女マンガの天然ジゴロ系イケメン男子みたいな距離の詰め方をしていました(70話)。

さらには、キヨミにジークの「地鳴らし」利用計画を伝えられたあと、エレンがただ一人、ヒストリアをかばった、あの一件(107話)。

ジークの計画によれば、ヒストリアとその子孫は代々、巨人を継承せねばなりません(ジークが隠していた真の「安楽死」計画でも、この点は変わらない)。

これを受け入れると即答するヒストリア。兵団上層部はみな、気まずそうに押し黙りつつも、まあそうしてもらうしかないわな、という面もち。

そんななか、エレンだけが立ち上がり「あらゆる選択を模索する」ことを提案したのでした。

泣きそうな表情のヒストリア。

カプ厨でなくても、これにはヒストリア→エレンの波動をビンビン感じてしまうところ。

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107話「来客」

 

それを明確な恋愛感情とまで見なせるかどうかは別として、ヒストリアのエレンへの感情が、エレンのかのじょへの感情よりは大きくなっていったであろうことは、推測に難くありません。

もちろん他方で、ミカサのエレンへの感情をヒストリアは(というか友人は誰でも)知っていたでしょうし、それに公での立場の違いもありますから、ヒストリアは特別な感情をエレンにもったとしても、それを行動に移そうとは思わなかったでしょうね。

......あの密会のようなシチュエーションがなければ。

 

エレヒス実在説の実存論的証明

ヒストリアとエレンの共通点として、他人への思いやりや好意をもつ場合にも、決して相手に依存しないということが挙げられます。

この二人は、精神的に成長した結果、相手の自由を尊重しつつ、みずからの自由と責任において他人を思いやることができるようになりました。

何が言いたいかというと、エレンがみずからの自由と責任にもとづいて「地鳴らし」をやると決めたとき、ヒストリアは結局かれの意志を尊重しつつ、みずからの自由と責任にもとづいてエレンの子を身ごもることにしたのではないかと。

 

あの密会でエレンは、レイス家と同じ犠牲の道をヒストリアに歩ませることは絶対に受け入れられないと言い切りました(130話)。

ただしその意味は、ヒストリアだから救ってあげたいということではありません。

ヒストリア自身が自己犠牲を受け入れようが受け入れまいが、エレン自身の倫理観にもとづいて納得できない、という意味です。

エレンの行動の理由は、あくまで自分自身にあります。

 

ところで、なぜエレンは、同期の友人のなかでは(イェレナとの密談を手引きしたフロックを除けば)ヒストリアにだけ真意を告げたのか?

それも主要には、実際的な理由からでしょう。

つまり、連れてきたジークを兵団がすぐにヒストリアに継承させる可能性を、すでにエレンは念頭に置いていたのでしょう。

そうなればエレンの決断そのものがムダになります。

だから、それを避けるようヒストリアには備えてもらう必要があったのでしょう。

少なくともその程度には、ヒストリアを自分の計画に巻き込むしかないと分かっていたから、エレンはヒストリアと密会したのだというのが真相だと考えられます。

 

当然ながらヒストリアは、エレンの「地鳴らし」という代案を思いとどまらせようとします。いくらなんでも人類大虐殺なんて、良心が許しません。

でも、それはエレンも分かっています。そのうえで、ヒストリアを共犯にしなければならない。

だからエレンは、かれの行動がヒストリアに重荷を負わせるものではないと知らせるために、うまいことを言います。

ヒストリアは「あの時オレを救ってくれた 世界一悪い子」じゃないかと。

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130話「人類の夜明け」

 

つまりエレンは、こういうことが言いたいのでしょう。

――あのとき、お前はお前自身の理由でオレを救ったではないか?

オレのためではなくて、お前自身のためにそうしたんだろう?

それと同じように、オレはオレ自身の理由で、オレ自身のために、オレ自身の自由と責任において、この選択肢を正しいと信じ、実行する。

だから、お前はオレの意志を変えることはできないし、そのことでお前に責任はない。

それはお前にもよく理解できるはずだ。

......ここまでの意味が込められているはずです。

だってエレンは、ヒストリアを単なる「悪い子」ではなく「オレを救ってくれた」悪い子だと思い起こさせたのですから。

 

上の一言によって、エレンの意志がもはや誰にも曲げられないことを、ヒストリアは悟ったはずです。

だからかのじょは、もはやエレンを説得しようとはしませんでした。

そのかわりに、自分から「じゃあ エレン」と切り出し、そして「私が...子供を作るのはどう?」と提案したのです。

これは、エレンの意志が変わらないことに納得したという表明であり、そして同時に、エレンと密かな共犯関係を結ぶ(=「獣」継承を回避する行動をとる)ことの表明であると理解できます。

 

エレヒス実在説の間主観的証明

しかしながら、それだけでヒストリアの気持ちは済んだのでしょうか?

たしかにエレンは、自分の選択の責任がヒストリアにはないことを告げましたが、そうはいっても、かれの意向を汲んで行動してほしい(=「獣」継承の回避)という含みをもたせていました。

だからエレンの意向を尊重するとすれば、けっきょくヒストリアはエレンの計画に一枚噛むことになります。まったく無罪放免というわけにはいかない。

そこで考えたいのは、はたしてヒストリアは、エレンに一方的に押しつけられた意向に従うだけで、黙っていられるようなキャラだったか? ということ。

 

ヒストリアを共犯に巻き込もうとしているのに、かのじょには責任がないかのように称するエレン。

水臭いヤツでもあり、ある意味ズルいやつでもある。

そんなエレンのふるまいに、ヒストリアが感情を揺さぶられたとしても不思議ではありません。

ましてや、エレンに対するヒストリアの感情がエレンのそれとは不釣り合いに大きくなっていた、という先の見立てが正しかったとすれば?

しかもこの密会は、ヒストリアにとってはエレンとの今生の別れになるかもしれないのです。

エレンが思いつめた末に決断したことが見て取れるとすれば、かれにもう生還する気がないのではないか、これ死亡フラグなんじゃね? と、そうヒストリアが勘づいてもおかしくありません。

 

そうだとすれば、ヒストリアの感情が次のように動くのは、大いにありそうなことではないでしょうか。

――わたしがほのかに特別な感情を抱く相手の男はいま、自分の意志を貫こうとしており、しかもどうやら生きて還ってこないつもりである。

計画を告げることで、わたしを巻き込んでおきながら、わたしには責任がないかのように男はいう。

かれの真意はどうあれ、客観的に見れば、それがわたしを犠牲にしないための行動なのは間違いない。

だが、ここまでしてくれるにもかかわらず、男はわたしを、とくに重要な存在とは思っていないという口ぶりである。

いったい何なんだテメエは!

わたしの気持ちをどうしてくれるんだ!

一方的に自分の都合だけ押しつけて去ろうとするな!

お前が自分の都合を押しつけるなら、こっちもそうしてやる!

わたしの気持ちを一晩だけ受け入れろ!

異性の幼馴染のことは今夜だけは忘れとけ!

......みたいな。

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こういう風にヒストリアの感情が動き、エレンを誘ったとして、かれはそれを受け入れてしまったのか?

ほんとうにミカサちゃんが好きなら、貞操を守ってみせろ! というのは正論ですが、けっこう仲良しのかわいいコが一夜限りの秘密の関係だからと話をもちかけてくれば、エレンくんも心が揺さぶられちゃうでしょうね。

そもそもエレンは、ヒストリアの心の負担を軽減しようとしながら、けっきょくはかのじょを自分の計画に巻き込んだ、つまり自分のワガママを通したのです。

だとすれば、それに目をつぶってやるかわりに、こっちのワガママも聞けとヒストリアに言われてしまえば、エレンには抵抗する術はないでしょう。

 

だとすればサスペンダー君は、昔ヒストリアをいじめていたことへの後ろめたさをつけこまれて、ヒストリアの妊娠の事情をカムフラージュするために協力させられたわけです。

そんなサスペンダー君にかわいそうなこと、ヒストリアはしないだろうって?

いや、やるでしょこの人なら。

それにまあ、いっしょに暮らしているうちにサスペンダー君が誠実な人間だと実感すれば、ヒストリアもかれに相応の愛情はもつでしょうし、二人目以降はちゃんとサスペンダー君とのあいだに作るくらいの度量はあるんじゃないですかね。

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139話「あの丘の木に向かって」

 

そういうわけで、エレヒス実在説はさまざまな角度から見て「さもありなん」だと、筆者は感じています。

......なんだか途中から、二次創作の短編小説みたいになっちゃったね。

でもまあ、なぜエレンはヒストリアだけに計画を告げたのかの部分までは、わりときちんとした作品考察になっているのではないかと。

 

結語に代えて

エレミカ派のみなさん、どうか怒らないでくださいね。

別に筆者は個人的趣向としてエレヒス推しというわけではありません。

それに、もしエレヒスが実在していたとしても、それは決してエレミカを否定することにはならないのです。

たとえエレンが密会の夜、勢いで「偶然」ヒストリアと致してしまったとしても、きっとサルトルが言ったように、エレンにとってはエレミカこそが「必然の関係」なのです。

......というのがオチということで。

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